- さようなら勿忘草を背に隠し
- 古本に勿忘草のしおりかな
- 暮の春遠回りする散歩道
- 暮の春待ちきれず飲む一杯目
- 爪先に立夏の湖(うみ)は冷たくて
- 色褪せた恋や立夏に蹴散らされ
- 立つ夏に恋の淡色塗り替わる
- 飛行機の引く雲の先夏に入る
- 石投げて夏は来たかと向こう岸
- サンダルに覗く新緑爪の先
- タワーから新緑の街飛び降りる
- 新緑や水無き池に映る影
- 薫風や校庭の声響く午後
- 夜半の雨憂きもの流し薫る風
- ふらふらと夏の蝶飛ぶ夜の街
- 溜め息は夏の蝶へと姿変え
- 夏の蝶白いレースの揺らぐ窓
- 虞れずに摘んで笑ふひなげしや
- 雛芥子や群れている様(よ)で孤独なり
- 白浜や風の隙間に夏兆す
- 触れ合った肌にじわりと夏兆す
- 線香を立てて走り茶あなたにも
- 里帰り新茶携え団子提げ
- 都会来て海鵜の中の川鵜かな
- 恨みごと水面に放ち鵜に呑ます
- 彷徨うは卯月曇の夢のなか
- 終わらない卯の花曇恋占い
- 逢えぬひと卯月曇が晴れたなら
- 甘藍や滴る水に塩溶ける
- 持たずともずしりと重いキャベツかな
- 雀らが甘藍畑でかくれんぼ
- お見舞いの夏蜜柑いろ鮮やかに
- 夏蜜柑皮に入らぬ指染まり
- 夏蜜柑無言で食す母娘
- 小満や歩く浜辺は凪の朝
- 小満や昨日の雨の傘を干す
- 畔道や風と駆けっこ麦の秋
- 髪伸びて切るか結くか麦の秋
- 麦秋やスクランブルに人の波
- 青嶺より青き芝行く駿馬かな
- 旅の友連れ添うはただ青嶺のみ
- 青嶺より見渡す青嶺遙かなり
- 見渡せば青嶺の先にまた青嶺
- 窓枠という額縁に青嶺かな
- 凛として後はよろしく花胡瓜
- 着信の音より先にほととぎす
- ほととぎす夢の中には現れず
- 涙枯れ青梅雨求む心かな
- 置き去りの我にそぼ降る迎え梅雨
- ため息をんっと堪える走り梅雨
- 梅雨入りを待って切り出すサヨウナラ
- 梅雨入りやレインパンプスいざ出陣
- 梅雨入りに喩えて恨み辛みごと
- 頬撫でる南風(はえ)や涙のしお辛く
- 君仰ぐ扇子に合わせシャツ選ぶ
- 扇子閉じ立ち上がる君花子かな
- 緩やかに動く扇子の催眠術