何処までも青く雲ひとつない空の下、生まれて初めて著名な方の葬儀に参列した。
想像していた以上にたくさんの人が訪れていて、列の最後尾だったのは自分が並んだその一瞬だけだった。
御焼香の列に並びながらワンセグテレビで三津五郎さん、大竹しのぶさん、野田秀樹さんの弔辞を見ていた。
この列の先、この建物の中でいま行われているという事実に不思議な気持ちになった。
遠い国のニュースを見ているようだった。
では自分は何の列に並んでいるのだ?
中継が終わり、テレビを消した。
思い出したかのように時折進む列。
舞台やテレビの勘三郎さんを思い出しては目が潤み、乾いた頃にまた思い出して…を繰り返しているうちに御焼香をしたいのかしたくないのか分からなくなっていた。
いや、したくない気持ちのほうが大きかった。
本堂前に設営された受付のテントまで辿り着くとヒーターの熱に驚いた。
立ち通しでぶり返していた腰痛は確かに辛かったが、あぁやっぱり寒かったんだなと気がつく。
階段の下まで行くと報道取材のため一般会葬は中断し、脱ぎ掛けていたコートを着直す。
暫し待ったところで福助丈御一家が出てこられ「お待たせして申し訳ありません。もうすぐ、もうすぐ終わりますから。本当に申し訳ありませんね。」と繰り返しながら立ち去る福助丈の少しやつれたお顔が悲しかった。
報道陣が引き上げて一般会葬の焼香が再開された。
階段を上ると、目の前に広がる先刻ワンセグテレビで見た祭壇に遠い国の出来事でもなんでもないことを知らされた。
焼香台に近づき遺影、戒名、御骨を順に見てもそれはひとつにならない。
御焼香を済ませても、優しく微笑んでいる勘三郎さんが何処にもいらっしゃらないことは信じられなかった。