初日(二月四日)。中央やや花道寄りの二列目にて鑑賞。
一昨日になるが、染五郎さんが昨夏の事故による怪我からの舞台復帰を果たした。
一月下旬のファンを集めたパーティでは乾杯を忘れてしまうなど初めは少し緊張した様子ながらも、一部で報道された美容整形疑惑について(逆に疑惑が増すくらい)否定するなど元気な姿を見せてくださってはいたが、やはり歌舞伎役者として舞台に立つ姿を拝見するまでは完全復帰とは言えず、この日を待ちわびていた。
比較的上演日の浅い日付では観に行かない自分だが、そんなこんなで迷わず初日を申し込んだ。
一、口上
幸四郎さんによる正装での口上。
事前のインタビューでは師匠、役者としてよりも父親としてご挨拶することになると思うと仰っていらしたのだが、前夜に團十郎さんの訃報があったこともあり、そのことには触れずとも開場の迫った歌舞伎座に触れたところではなんとも言えない寂しさが漂い、幸四郎さんもグッときているような一瞬、ほんの一瞬の間があったように思う。
二、義経千本桜 吉野山
演目が発表になった時は、鼓を手にせりから落ちて鼓に誘われてすっぽんから復帰とかナメとんのかゴルァ!な気がしないでもなかったが、一人で出てきて踊る演目ではなく、福助さん(演じる静御前)がいつの間にかいなくなった染さん(演じる忠信実ハ源九郎狐)を呼び寄せるという形だったのは素敵だな、と。
顔をして拵えた染さんの姿は素顔よりも断然イイとか失礼なことは言わないけれど(もう言ってる)「これよ、これ!これが見たかったのよ!やっと染さんが帰ってきたわぁぁぁぁぁ」と心の底から感動させてくれた。
とてもとても丁寧に、慎重というよりも丁寧に踏みしめるような踊りで、私も「うん…、うん…」と大きく頷くような気持ちで観ていた。
亀鶴さんの速見藤太が上品な気持ちの良いおかしさで、初役?初役だよね?と上演記録を確認しちゃうくらいの違和感の無さ。
福助さんのドヤ顔(いや、福助さんってさ、染さんと踊るとき嬉しそうってか、得意気なんだよ、なんか。あれはウチらを挑発してる、なんて冗談はさておき)も可愛かったし、引っ込む染狐は幸せそうだったし、めでたしめでたし。
客席からはすすり泣きも聞こえ、私も含めた周囲はハンカチを何度も目に当てていたし、吉野山でこんなに客が泣いていたのって舞台からはどんな景色だったんだろう(泣笑)。
三、通し狂言 新皿屋敷月雨暈 弁天堂/お蔦部屋/お蔦殺し/魚屋宗五郎
普段は省略される弁天堂からお蔦殺しまでがついた上演。
なぶり殺しな場面が省略されることが多い演目は他にもあるけれど、反り返ったり井戸に落ちたり役者さんも大変だとは思うけれど見せ場だと思うのよ。
殺し場という理由で省略されているわけではないのだろうけれど、殺しだけではなく一緒に省略されてしまう話もあるし勿体ない。
岩上兄弟の企みだって説明では分かっていても、ねぇ。
主計之介だって最後に突然出てきて謝るより全然良かったわ。
とはいうものの、実は魚宗ってちょっと苦手。
話の筋ではなく、誰が宗五郎を演じても客席にいようがテレビ中継であろうが関係なく何故か玄関先で眠気に襲われてしまうのだ。
でも、十左衛門が宗五郎を庭へ運べと促す直前には必ず意識がハッキリしているので然程長い時間ではないのだが、特殊な催眠術にでも掛かったかのようにおはまが現れた辺りでやばくなる(苦笑)。
ともあれ、酒癖の悪さで妾を殺した殿様と酒癖の悪さで武家屋敷に怒鳴りこんでいった町人はなんとか和解するのであった…と、丸く収めたいところなのだが、主計之介が酔いに任せて怒り出したのはわかるのだが、お蔦に対する気持ちが見えにくかった気がする(端から殺したくて殺す役の染さんも好きよ、ってここでは別の話)ので、苦手な演目ではあるが後半にもう一回観に行こうかな、どうしようかなと迷うところではある。
それに筋書きを確認すると若干変更というか省略されたようなのだが、どっちが良かったのかなってのもある。
金太郎くんの出演が夜の部だけだし、とにかく口上以外の全幕で出演する福助さんに敬意を表するためにも夜の部を一回追加しちゃおうかなー、でも三月もあるしなー、どーしよーかしららららー。
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最後に…
染五郎さん、舞台復帰おめでとうございます。
また、走りだすんですね。
ご自身でもこれまでただ突っ走ってきたと仰っていますが、今度は突っ走るばかりでなく、時には皆と一緒に、時には皆の後ろを、時には金太郎くんを背負ったり手を引いたりして、時には急いで、時にはのんびりと走ってください。
財布がなんとかなる限り着いていきます、いや、着いていけるように財布をなんとかします(笑)。