1階一桁列二十番台。豆大福。
一、暗闇の丑松
暗闇の丑松....幸四郎
女房お米.....福助
四郎兵衛.....段四郎
女房お今.....秀太郎
この芝居はかなり好き。何故かこの暗さと救いようの無さが堪らない。
いきなりお米が折檻される場面で始まり、ようやく現れた丑松はもう二人も殺しちゃってるし…。お米は哀しすぎる女。騙されて売り飛ばされて女郎になり、それでもどうにかこうにか生きてきたのは丑松のことを想っていたからだったろう。細く弱々しく繋がっていた命綱を丑松に切られてしまうのだから。福助さんのお米はその切られた糸は決して弾かれるように切れたものではなく、切れたところからふわふわとゆらゆらと宙を漂い、いつの間にか見えなくなってしまう蜘蛛の糸のような感じである。お米の糸とは異なる、ピンと張り詰めた糸は切れた瞬間に勢いよく弾かれて、お今を殺し、四郎兵衛を追う幸四郎さんの丑松。そして怯えながら逃げる幕切れは、舞台では演じられていない冒頭でのお米の母お熊と浪人当四郎を殺害して来た時のことを思いださせる。
丑松がお今を殺す場。お今の秀太郎さんなのか、秀太郎さんのお今だかよくわからないけれど色気凄すぎ!!襟がはだけた時は「あぁぁ、胸が!!」とドキドキしてしまった。
風呂屋では湯屋番頭の蝶十郎さんが大活躍。昔の暮らし、働く人をまさに身体全体で表現。手桶を積み終えた時は客席から拍手。窓から差し込む光も綺麗だった。
おまけ:染さんは料理人祐次。お米と丑松の話に直接は絡まないが、丑松が帰ってきたことを確認させるような役回り。ちょっとヤクザ入り過ぎだけれど、カッコ良かったわ。
ニ、新古演劇十種の内 身替座禅
山蔭右京.....菊五郎
太郎冠者.....翫雀
侍女小枝.....梅枝
侍女千枝.....松也
奥方玉の井....仁左衛門
このお二人の身替座禅は以前テレビで観たことがあるのだが、歌舞伎座では初上演だそうである。当たり前だけれど実際に観るのは良い。菊五郎さんのまろやかな色気と仁左衛門さんの角張った奥方振りは楽しいし、小枝と千枝は可愛い。男性陣が右京、太郎冠者が柔らか味のある丸い雰囲気で、玉の井をはじめとしてすっきりとした印象の女性陣。
三、二人夕霧 傾城買指南所
藤屋伊左衛門...梅玉
後の夕霧.....時蔵
おきさ......東蔵
先の夕霧.....魁春
廓文章の後日談、パロディと言われてもやはり伊左衛門は藤十郎さんという印象が強すぎるんだなぁ。あんまり何にも考えないで観ていたけれど、のんびり楽しい一幕だった。死んだものと思っていた夕霧は生きているし、ここにももう一人夕霧はいるし、めでたしめでたし…って、ぉぃ。蛸を手に花道を駆けて帰ってくる時蔵さんの夕霧が素敵過ぎ。ちょっとすっ呆けた雰囲気の時蔵さんは大好きだ。