歌舞伎座 六月大歌舞伎・壱

昼の部、一回目。1階一桁列10番台。花かご弁当、歌舞伎座焼菓子定式幕見立て(土産持ち帰り)。

一、「信州川中島合戦?輝虎配膳」
     長尾輝虎......梅玉
     お勝........時蔵
     直江山城守.....歌六
     唐衣........東蔵
     越路........秀太郎

歌舞伎座で上演されるのは三十三年ぶりとのこと。どうしてそんなに間があいてしまったんだろうと首を傾げてしまう程のおもしろさ。確かに越路とお勝を演じる役者さんを揃えて、さらに輝虎役を…となると大変そうだなぁ。女形のみなさんが見せ場たっぷりのこういうお芝居は大好き。

時蔵さん、素敵だった。唐衣からみれば兄嫁という立場だが、吃音で言葉が不自由ということもあり終始控えめな佇まい。決してその負い目から品格が落ちるようなことはない。いざという時には刀の前に身を投げ出して姑を守る武家の女。はて、お勝の実家ってどこなのだろう?やはり武家の息女なのかな。歌舞伎を観ながらこのテの疑問を持つことは少なくないのだが、なかなか調べるところまでいかないのが私の良いところ、もといダメなところ。閑話休題。「激昂する輝虎を琴を弾き歌いながらなだめるお勝」と文章で読むと「どんなだよ」って感じだけれど、不思議なもので自然に流れていく。役者さんってスゴイわ。最後の引っ込みが良い。怖くて頑固な姑だけれども同じ武家の女として、その強さが好きなんだろうなぁという気持ちが表れているように感じた。

秀太郎さんの凄みがさ?、たまらんのよ。秀太郎さんというと、まさに今月上演されている井筒屋おえんとか、吉田屋のおきさのようなイメージを強く持っていた自分にとっては本当に嬉しい上演だった。それだけに四月の源太勘當が観られなかったのが残念でならない。(うー、なんであんな襲名狂騒曲の最中にやるんだよー)越路は嫁を伴って娘の嫁ぎ先ではあるものの、息子の敵の元へやって来るわけだけれど、懐かしさの中にも張り詰めた空気が入り混じった状況に見物人としてはわくわくするのである。娘婿の差し出す土産物の小袖をつき返し、輝虎の運んできた膳をひっくり返すような動きや台詞のあるところはもちろんなのだが、脇息にもたれて休む姿が好き。老母らしくこじんまりとした体を作っているのに、両脇に娘と嫁を従えての姿は流石の迫力。動いている周囲と止まっている秀太郎さんをみる楽しさ。

越路がお勝と唐衣を従えて三人が並んでいる図にもう言葉がなかったッスよ。「うぉ?、すげぇよ」と心の中で叫びまくり。

二、「新歌舞伎十八番の内 素襖落」
     太郎冠者......吉右衛門
     太刀持鈍太郎....歌昇
     次郎冠者......玉太郎
     姫御寮.......魁春
     大名某.......富十郎

一つ目の輝虎配膳で思いのほか力を入れて観てしまったせいか、すっかりリラックスモード。吉右衛門さん、歌昇さんの松羽目ものはこんぴら歌舞伎でも二演目拝見したというのもあるかもしれないけれど、何より富十郎さんがすっごく楽しそうに演じてらっしゃるので、こちらもなぁんにも考えずに楽しんだ。魁春さんは赤姫の姿が良く似合っていてすっきりとあか抜けたたたずまい。リラックスモードといいつつ、里長さんはいらっしゃるし、清太夫さんはいつも通りに真っ赤な顔をしてらっしゃって、観るところがたくさん。知らないうちにきょろきょろしていたかも。

三、「恋飛脚大和往来?封印切・新口村」

?封印切?
     亀屋忠兵衛.....染五郎
     傾城梅川 .....孝太郎
     槌屋治右衛門....東蔵
     井筒屋おえん....秀太郎
     丹波屋八右衛門...仁左衛門

染五郎の會で封印切が上演されてから早四年。歌舞伎座で染さんの忠兵衛を観られる日が来ることを期待していなかったと言えば嘘にはなるけれど、幕が開くまで半信半疑、ってのは大袈裟か。しかも梅川役が孝太郎さんってところが、私にとっては涙モノ。あー、そろそろまた油地獄も観たい。

秀太郎さんがおえんさんを演じているのか、おえんさんとは秀太郎さんなのか…、芝居の上での忠兵衛・梅川を、若い役者としての染五郎・孝太郎を引っ張って行くところが重ね合わさってしまって、もう訳分からんのよ。いや、私が勝手に一人で感極まっているだけと言えばそれまでなんだけれどさ。裏戸口で二人の世話を焼きつつ、自分の昔を思い出しての「てれくさ」から店先で治右衛門の羽織を受け取るところが、むちゃくちゃ可愛いぃぃぃぃっ!!!!!相当ヤバイ。東蔵さんの治右衛門がいい旦那っぷりをみせているから、余計に一人で勝手に若返っているおえんさんが可愛いんだなぁ。

八右衛門が出てくると俄然、舞台は引き締まる。仁左衛門さんは受けて良し攻めて良しで、こんな風にして染さんの舞台に関わって下さることがとても嬉しい、というのはおこがましいかな。でもさ、本当にいやらしいのよ、八右衛門って。そして怖い。去り際に忠兵衛の首に煙管をあてて「この首が…」ってところは背筋がゾッとした。その前に忠兵衛が五十両を返していないというのは嘘だったことがばれたあたりの気まずい時の顔からのギャップが凄い。

可愛い梅川だったなぁ。守ってあげたいという可愛さではなくて、他の男には渡したくないって感じの梅川。と言ってもわたしゃ女なんでよくわからんけれど…ぉぃ。八右衛門が忠兵衛の悪口を言っている間の表情が、八右衛門が嫌いというより、とにかく忠さんの悪口を言うヤツは許せないって顔をしてたように感じられた。今回の私のツボは、忠兵衛から事の真相を聞かされて奥に倒れこんだ後に「どうしょぅっ!」と叫んで振り返ったところ。一気に溢れる絶望感なんだけれど、忠さんだけがしでかしたことではなく、二人のことになっていたと思う。

忠兵衛の最初の花道から玄関先での一人での場面はちょっと硬いかなぁ。硬いというか慎重さが勝っているのかも。裏戸口での二人だけの場面も、少しだけれど互いに確認し合うような感じが気になったかなぁ。でもその硬さや慎重さは芝居が進むに連れて気にならなくなってはいたから、次回が楽しみ。まぁ、なにやかやと言いながらもどっぷり芝居の流れと孝染の梅忠に浸かってしまったのだが。で、またまたここでも今回のツボ。八右衛門が貸したままだと言いふらした五十両をちゃんと返したと言って、受取の証文を出して見せるところ。このシーンは四年前の染五郎の會の時も好きだったのだけれど、自分の中にある四年前の三越劇場の記憶がストンと収まるべきところに収まった感覚が残った。次の観劇が楽しみである。

?新口村?
     父親孫右衛門....仁左衛門
     忠兵衛.......染五郎
     忠三郎女房.....歌江
     梅川........孝太郎

忠三郎なら大丈夫と請け負っていた夫・忠兵衛は父の姿を見てからは、すっかり息子に戻って嘆き悲しむ。そして梅川はせめて三日だけでも夫婦として過ごしたいとの言葉通り、気弱になっている忠兵衛をしっかり支える妻・梅川だったのではないかと思う。その二人を包み込む仁左衛門さんは圧巻。悲しみと絶望の中に温かさを感じた。

この幕、忠兵衛と梅川の手が触れ合うたびに、もの凄くせつなさを感じたんだよなぁ。やっぱりこの孝太郎さんと染さんの組み合わせが好きだと実感。

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さて、長々と書いてきたわけだが、昼の部はあと二回行く予定。次回、次々回はもう少しすっきりとした感想を書くように心掛けるつもり…書けばだけれども。もちろん、夜の部も行く予定でいる。

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