歌舞伎座 九月大歌舞伎

昼の部。1階一桁列20番台。朝から何も口にしていなかったので到着してすぐめで鯛焼きに直行。昼は鴨せいろ。

一、「正札附根元草摺」
     曽我五郎時致..橋之助
     小林妹舞鶴...魁 春

橋之助さんは白い衣装が似合ってらしてスッキリ。このお二人は夜の「平家蟹」で恋仲の役だが、あまり拝見したことのない組み合わせ。そんな新鮮さもあってか、朝一番から楽しんで観ることができた。

二、「菅原伝授手習鑑 -賀の祝-」
     桜丸......時 蔵
     桜丸女房八重..福 助
     梅王丸.....歌 昇
     松王丸.....橋之助
     梅王丸女房春..扇 雀
     松王丸女房千代.芝 雀
     白太夫.....段四郎

段四郎さんの思い悩んでいる部分を見せたり隠したりする加減が良い。松王丸と梅王丸から出された願書を読むところなんか間延びしないもんなぁ。

時蔵さんの立役を拝見するのっていつ以来だろう? 最近、あったっけ? 悲しげで儚げでとてもせつなかったのだけれど、やっぱり女形をされている方が好き。桜丸夫婦を観ていながら「このお二人で十種香とか…」などど、目の前の芝居を観ろよってなことを言われそうなことを考えたりもしつつ、歌昇さんってこういうお役、似合っているよなぁなどと思っているうちに幕。

三、「豊後道成寺」
     清姫......雀右衛門

今月の目的はこの演目。少し前にNHKでちらり拝見していたので、本当に楽しみにしていた。そしてその期待は裏切られなかった。

せり上がった舞台の中央に立つ清姫のふんわりとした微笑。ほんのりと頬を赤らめていたその顔が青白い蛇と化していく。最後のキメの時、冷たい怒りに溢れる、人のものとは思えないその眼に圧倒されてしまった。もっと華麗に優雅に力強く舞う人はいくらでもいると思う。なんだろうね、あの存在感。清姫が安珍を慕う心と雀右衛門さんが豊後道成寺という演目を愛する気持ち、清姫の妄執と雀右衛門さんの役者としての執念のそれぞれがぶつかり合うのかな。

四、「弥次郎兵衛 喜多八 -東海道中膝栗毛-」
     弥次郎兵衛...富十郎
     喜多八.....吉右衛門

何にも考えずに観ていられることの楽しさ。富十郎さんのこういうお役をされている時のほがらかな表情は、観るものを幸せにしてくれるねぇ。

歌江さんの細木妙珍の声と喋り方が凄く似ていた…と思う。本家の方が出演されている番組は殆ど観たことがないのであまりわからないのだけれど、少しは観たことある程度には恐ろしいほど似ているように感じたよ。

愛知万博にちなんで出てきたモリゾーとキッコロの中から現れる弥次さん喜多さんもなかなか面白い(と、書いておけば後で読み返したときに「あぁ、アレか」と思い出す筈)。

大詰めで、三吉の信二郎さんが高々と掲げる巨大エビフライもさることながら、福助さん演じる投げ節お藤のエビフライかんざしが忘れられない。

 
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夜の部。一階16列目10番台。

一、「平家蟹」
     官女玉蟲....芝 翫
     妹 玉琴....魁 春
     おしお.....吉之丞
     那須与五郎...橋之助
     僧 雨月....左團次

最初の浜辺で海草を集めて帰ろうとするところ。一人の官女が持っている手桶が凄く重そうなのよ。あぁいう細かい芝居に気が付いた時は嬉しい。

で、玉蟲。怖ぇよ。平家に仕えた女の悲しさを見たような気もするし、人のおぞましさのようなものを見たような気もする。与五郎の使いが迎えに来た時の玉琴の可愛らしさが、姉の悲慘さを一層引き立てている。

冒頭では舞台上のスクリーンに映し出される絵とともに、白石加代子さんのナレーションでここまでの説明が入る。福助さんのサイトで知っていたのだが、なかなか面白い試みだったと思う。賛否両論あるだろうけれど、放送中の大河ドラマに関連するエピソードを上演するにあたって、そのナレーションを担当されている方にお願いできたというのは、試してみるには絶好の時だったのではないだろうか。私はあっても良いし無くても良い…って、無責任な感想(笑)。邪魔になっていたようには思わないし、面白く観たが、無かったとしても困らなかったと思う。

二、「歌舞伎十八番の内 勧進帳」
     武蔵坊弁慶...吉右衛門
     源義経.....福 助
     富樫左衛門...富十郎

平家側の没落を上演した後に、その平家を滅ぼした側の義経の逃避行を上演するというのもなかなか珍しいのではないだろうか。とは言え、昨年十二月に書いた通り、勧進帳はそんなに好きな演目でもない…って、だから最初っからそんなこと書くと実も蓋もないのだよ。

富十郎さんの富樫、深かくて重かったね。尤も前回観た富樫が若すぎたのだろう(いや、あれはあれで良かったし、好きだったのよ、200%贔屓眼だけれど)。

三、「忠臣蔵外伝 忠臣連理の鉢植 -植木屋-」
     弥七実ハ千崎弥五郎
          ...梅 玉
     お蘭の方....時 蔵
     植木屋杢右衛門.歌 六

珍しい演目だそうである。上に書いた主要人物を演じる三人の役者さんは六月にも「輝虎配膳」で共演されている。先の平家蟹における芝翫さんの試みもそうだし、この植木屋のように珍しい演目を再演したり、現代劇の演出家が参加するなど、伝統芸能と分類される歌舞伎も色々と動いている。

割とこういう話は好きだったりする。自分には忠義心とか犠牲心は無い方なのだが、自分とは違うものを観るからこそのおもしろさ。もともと芝居、映画、テレビを観ていても感情移入型じゃないせいか、(自分にとって)ありえない人たちの方が観ていて楽しい。面白かったのだけれど、時々なんとも言えない”間”を感じたことも確か。いや、やっぱり私が和事が苦手なのか? と言いながら来月夜の部(三番目が河庄)も観に行く予定。

勉強不足でそういうものが存在するのかよくわからないのだが、義経千本桜のような感じで忠臣蔵外伝尽って感じの通し狂言作ってくれないかなぁ。

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と、駆け足で九月大歌舞伎を振り返ってみた。先月観に行ったのはアレで、来月がコレで…などと考えているとあっという間に一年が過ぎる。

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