歌舞伎座 六月大歌舞伎・昼の部

1階一桁列花道下。入場前にカステラモーニング。

一、君が代松竹梅
   松の君....翫雀
   梅の君....愛之助
   竹の姫....孝太郎

平安朝の装束は華やかで優雅だ。お三方ともそれぞれに松・竹・梅の風情が出ていたが、孝太郎さんの竹の姫は天真爛漫と言おうか、名前の通り竹を割ったような性格をしていそうな雰囲気がとても気持ち良かった。

ニ、双蝶々曲輪日記 角力場
   濡髪長五郎...幸四郎
   吾妻......高麗蔵
   放駒長吉/与五郎
       ....染五郎

相撲小屋から客が出てくる、出てくる(笑)。あれは楽しいねぇ。放駒の若々しさ無邪気さと濡髪の真意。放駒は可愛かったわ。満足していないわけじゃないんだけれど、なんか弾けて、というか迫ってこない感じがするのはなんだろう。いささかテンポが良すぎて、放駒の威勢の良さと濡髪の貫禄とのバランスが私には合わなかったのかもしれない。「濡髪」って色っぽい四股名だなぁと、鬢付油の匂いを思いだしたりして…。与五郎はもう濡髪が大好きで堪らないという感じがすごく良く出ていて、間抜けっぷりもはしゃぎっぷりも観ていて楽しい。もともと似合うと思っていたけれど、久しぶりに見たあの拵えがさらに似合っていて「ぅぉ、出たっ」という感じである。久しぶりに…と書いたけれど、久しぶりだっけ? そうでもない? もうあの格好でそのへん歩いていても違和感が無さそうな位になっててわかんないや。いや、さすがに違和感あるだろうよ。

三、昇龍哀別瀬戸内 藤戸
   老母藤波/藤戸の悪龍
        ....吉右衛門
   浜の男磯七....歌昇
   浜の女おしほ...福助
   佐々木盛綱....梅玉

意外と吉右衛門さんの老婆姿に違和感を感じなかった。尤も、作りこんだ化粧をされていたわけでもないし、釣女を見てしまったら少々のことでは動じないんだろうなぁ(笑)。さて、作品の方は平成十年に厳島神社に奉納されたという舞踊劇。反戦メッセージが込められているとのことだが、元々が能の『藤戸』を素材にしていること(残念ながらお能は未見である)や、源平物をはじめとして歌舞伎には戦で無念の死を遂げる者や我が子を失う者の話は多いので、社会派の歌舞伎?などと身構えることもなく観られるのではないだろうか。ま、感じ方は人それぞれだが。梅玉さんはこういうスッとした役が似合う。後シテの悪龍は吉右衛門さんの本領発揮というところで、登場から花道の引っ込みまで観るものを圧倒する。

四、江戸絵両国八景 荒川の佐吉
   荒川の佐吉.....仁左衛門
   丸総女房お新....時蔵
   仁兵衛娘お八重...孝太郎
   大工辰五郎.....染五郎
   成川郷右衛門....段四郎
   相模屋政五郎....菊五郎

やっぱり仁左衛門さんってカッコ良いわ♪三下奴には見えない…、見えない筈なんだけれど見えるのよ。何を書こうとしても、ベタ惚れな言葉しか出てこなくてダメだね。私にとって直球ど真ん中なので仕方がない。以前に何かの感想で書いたかもしれないけれど、まれに自分の後方から舞台に向かっていく空気というか熱を感じることがある。序幕での蟹の穴やら勝った者が強い話のあたりはまさにそれ。仁左衛門さんが演じている「佐吉」の言葉に引き込まれていくのか、佐吉の格好をした「仁左衛門さん」の話に集中するのか分からないがそんなことはどうでも良い。この客席から舞台に向かっていく風というか「気」の真ん中に自分がいることを感じる瞬間が好きなのだ。

?逆に、舞台から発せられる気(役者さんの存在感であったり美しさであったりと様々だが)に圧倒されてこちらが思わず仰け反る(のけぞるってこんな漢字なのね)ような感覚になることもある。お芝居って面白い。?

成川郷右衛門役の段四郎さんの「なに…この人…」と言いたくなるほど素晴らしい悪者ぶり。仁兵衛を斬って戻ってきたところの刀に水を掛けるところの緊迫感は堪らなかった。

染さんの辰五郎が良いんだなぁ。笑わせたりしんみりさせたり、和ませたかと思えばじーんとさせられる。この芝居の中では、唯一かたぎで生きている人だから、佐吉や周りの人物との浮かず沈まずのバランスは簡単なものではないのだろうが、とても自然にヤクザ者とかたぎの線引きが出来ていたように思う。

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