おつかれさま、四代目歌舞伎座

本日平成22年4月30日をもって現在の歌舞伎座は閉場となり、三年後には新しい姿で開場する予定だ。

地方出身者の私にとって歌舞伎座は決して若い頃から慣れ親しんだ場所とは言えないが、東京で就職し、ようやく初めての歌舞伎座観劇に辿りついたときの感動と興奮は今も忘れられない。
少ないながらも色んな思い出があるのだ。
座席が「いろは…」じゃなくなった時はショックだった。
一度でいいから歌舞伎座に行ってみたいという後輩を連れて行った。
御園座に行って帰京した翌日に歌舞伎座なんてこともあった。
安月給の勤め人でありながら、大好きな役者さんがとある役を演じたときには一等席5回という暴挙にでたこともあったが、切符代もさることながらよく休めたとも思う。
祖母の葬儀の翌日には羽田空港から歌舞伎座に直行した。
その祖母も歌舞伎が大好きで何度も札幌から観に行っていたらしいが、年齢や時代を考えると身内としては口あんぐり…である。
祖母は親しくしていた役者さんも何人かいて、楽屋に伺った話も聞かされたし、「○○(某役者さん)さんに札幌に行くなら××さんのところに行ってみなさい、と言われてきました。」と、なんの前触れもなく知らない若い女性が訪ねてきたこともあったそうだ。
父は大学時代を東京で過ごしたが、学友たちと忍び込んで観劇(…とは言えないか)していたと聞いたことがある。
嘘か真か昔は秘密の抜け道があったそうで、「上のほうだ」と言っていたからおそらく幕見なのだが、時代のせいか見つかったときは見つかったときで学生に対してはやさしかったらしい。
一緒に歌舞伎を観劇することなく祖母は逝ってしまい、父をちゃんとした席に招待することなく二人が知っている歌舞伎座は閉場してしまった。
そして私は三年後の新しい歌舞伎座に行き、帰省した折などにはああでもないこうでもないと家族に向かってまくしたてるだろう。

戦後の色んな出来事、もの、想いを溜め込んだ歌舞伎座は二十一世紀の歌舞伎を吸収するために三年をかけて鋭気と英気を養うのだ。
どんな劇場が完成するのか楽しみであると言うより、そこで観る歌舞伎はどんなだろうという気持ちである。
役者さんたちはきっと素晴らしい歌舞伎で魅せてくれる。
二つの歌舞伎座を味わえる喜びを胸に、三年間待ちましょう。
さよならは別れの言葉じゃなくて再び会うまでの遠い約束なのだから…って、いくらなんでもベタだろそれは。

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