シネマ歌舞伎クラシック[第四部]

歌舞伎座の花形歌舞伎の初日を横目に東劇で上映されている歌舞伎クラシックの中から第四部、「二人椀久」「年増」の舞踊二本立てを観てきた。


天王寺屋、京屋の「二人椀久」
ひとことで言えばゾクゾクした。
いや、ざわざわしたと言ったほうが良いだろうか。
お二人が決める度に錦絵が浮き出てくる。
松山太夫が現れて倒れている椀屋久兵衛に向かって歩を進めていくのだが、片足を前に出して止めた姿が、もう、あなた!
前半の吸い付く様な踊りから駈け抜ける様な後半の舞。
なんだろう、若さでは絶対に太刀打ちできない不思議な匂い。
恋しさに狂う椀久の哀れさ、遊女である松山太夫の哀しみ。
先頃、染菊で上演されたことは記憶に新しいけれど、二人のこの演目へのリスペクトや創り上げていきたい気持ちが、別次元の二人椀久を観ることで伝わってきた。
富十郎さんも雀右衛門さんも歌舞伎を観続けるよう、新しい歌舞伎座を育てていくよう仰っていると思いたい。

芝翫さんの「年増」
私は歌右衛門さんが舞台に立たなくなった頃に歌舞伎座に行き始め、映像でしかその存在を知らない。
つまり、私の歌舞伎観劇において先述の雀右衛門さんとこの芝翫さんの存在はとてつもなく大きい。
歌舞伎を観るようになる以前にテレビに映る芝翫さんを見ながら「競馬好きなんだよ」と祖母だったか父だったかに聞かされていたことも私の中で勝手に好感度を上げていた。
そんな芝翫さんの、私の記憶より少しお若い姿をスクリーンで観られたことはとても幸せである。
行ったことも見たこともない、さらに言えば生まれ故郷の歴史を遡っても存在しない「江戸」を「江戸の女」を私は芝翫さんに見ている。
籠から降り立つ粋な女の酔った風情にあゝと心地好いため息が漏れる。
清元の声と芝翫さんの姿に頭を空っぽにして漂う。
後半に台詞がある。
あの、甲高いのちょい一歩手前くらいの声に「あぁ、歌舞伎座だわ」と目が潤んだ。

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