大阪松竹座十一月特別公演・その2

特別公演ポスター公演の演目は以下の二つです。

「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」二幕三場
   竹の間、御殿、床下
    政岡.........玉三郎
    仁木弾正・沖の井...染五郎
    荒獅子男之助.....弥十郎
    八汐.........扇雀

「船弁慶(ふなべんけい)」
    静御前・平知盛の霊..染五郎
    武蔵坊弁慶......弥十郎
    源義経........扇雀

伽羅先代萩

さて、ひとつめの演目は玉三郎さんが乳母・政岡を演じる「伽羅先代萩」の竹の間、御殿、床下です。あらすじをご存じない方は検索してみて下さいな、すぐ出ますから。染五郎さんは家臣の妻・沖の井と陰謀の黒幕・仁木弾正の二役でございます。

玉三郎さんは好きな役者さんで、歌舞伎座に出演される時は(染五郎さんがいらっしゃらなくても)観にいくきっかけになっている役者さんの一人です。藤娘の時なんか、流し目光線で椅子からずり落ち掛けました(笑)。やはり今回も出てきた瞬間、グッと来ちゃいました。乳母の役なんっすよ、お姫さまでも花魁でもなくって。何なんだろうなぁ、あの感覚。花道を進むにしたがって一緒に竹の間に連れて行かれたっていうか、これから始まる事件に引きずり込まれてしまったというか…。親子二人してその身を御家に捧げて、政岡の息子は殺されちゃうんですけど、嘆き悲しむクドキの場面で、来ちゃいましたよ、奥さん、涙がじわ?っと。でも、何がどう泣けたのかを説明しろって言われてもできません。仕方ないというか、せつないというか、政岡としてはこうするしかなかったんだろうなぁってひしひしと感じました。うん、乳母になる前の政岡に会ってみたかった、どんな人生を送って、我が身・我が子を犠牲にして主君に仕えるようになったのか知りたいって思いました。

政岡の敵役・八汐は扇雀さんでしたが、どこからみても扇元大臣なわけで…というのは大袈裟ですが、よく似てらっしゃいました。扇雀さんは最近では八月の納涼歌舞伎でも拝見しているのですが、私ったらとりあえず「やっぱ似てるよぉぉぉ」と脳内絶叫を済ませないと観劇体制に入れない体質になってしまったようです(嘘)。で、八汐のお話に戻りますが、本当に憎々しいんですよ、コヤツ。自分の企みがバレそうだからって平気で御殿で子供を刺し殺すし…。なんて女なんだよ!って感じなのですが、やっぱり最後に正義は勝つということで殺されちゃうんです。その着地点へ向けての微妙さ加減が私は好きでした。あ、偉そうですんません。八汐って、憎々しさはあっても、圧倒的な強さを持っていたんじゃ、ダメなような気がするんです。あくまで兄・仁木弾正の手下なんですよね。このお話、殆ど女性しか出てこないわけで、さらに強烈な女を連れてこなくちゃ倒せないようなお話じゃあ、濃すぎるというかなんというか、まぁ、お芝居って良く出来てるわよねぇ、奥さま♪おほほほっ。ってな感じです。私は歌舞伎観劇歴が浅いので、コレを読んで「わかっていない」とお怒りの方もいらっしゃるのかもしれませんが、捨て置いておくんなまし。

あー、随分と行数がある割りに染五郎さんのことまだ何にも書いてないじゃん(^^;。私、染さんの女形が大好きなんですよ…と、ここから先を続けると私がどのくらい染さんの女形を好きかを書き連ねるだけになってしまい、全く先代萩とは関係なくなるので止めておきます。で、沖の井ですが、カッコ良かったわぁ♪八汐の企みをあばくキッカケになっていくわけですが、武家の女って感じでした。不必要なことは語らず、政岡の味方しようか、八汐につこうかとかじゃなくて「ご政道に背く行為は承伏いたしかねまする」ってな雰囲気のお局さまでした。でも、ああいう人って不器用な生き方で苦労するんだろうなぁと勝手な想像ふくらましつつ、長刀とか構えている姿がみたい…と妄想は更に膨らむのでありました。ちゃんちゃん♪

うぉぉぉぉぉ、大事なことを書いていないじゃない!染五郎 act as 仁木弾正ですよぉ!八汐の兄にしてお家乗っ取りの首謀者。ネズミに化けて陰謀の証拠となる書状を政岡から取り返し、どろどろん♪と姿を現したと思ったら今度はガマガエル…おっと、これは夜の部でした。妹が殺されたことも意に介さず、不敵な笑みを蝋燭に照らされながら花道を引っ込むわけですよ。ま、確かにあの八汐の兄ちゃんにしては線が細い感じというか、もうちょい貫禄が欲しい気がするのは若さもあるでしょうし仕方ないのかな。納涼歌舞伎で演じられた綱豊卿と同様に、これから何度も拝見することになるでしょうから、本当に楽しみです。あぁ、染さん、こんな生意気なこと書いてごめんなさい。でもね、さっきまで「きゃぁ!沖の井さまぁ!」だった私も「あぁ、私が奥勤めでこんな男に誘惑されたらコロッと加担してしまいそう。でもきっと爬虫類みたいに冷たいのよ、あの男。」とくらくらしているうちに休憩時間になりましたとさ♪

船弁慶

二つめの演目は、染五郎さんが静御前と平知盛の霊を踊る船弁慶という舞踊劇です。歌舞伎の観劇歴の浅さもさることながら、舞踊に関しては歌舞伎役者さんが踊られるものしか見たことがないので、ここで何を書いてもとんちんかんでお叱りを受けるとは思いますが、大して読者のいない自分語りのブログなので、まぁ、気楽に。

静御前。なんだか凄く悲しかったんですよ。弁慶(弥十郎さん)にもう義経(扇雀さん。これがまた可愛いのよ。)とはお別れだと言われて、義経が最後に舞を所望するんですよ。で、舞っている静御前を見ていたら、悲しくて悲しくて仕方がなくなってきちゃったんですよ。私ったら「先代萩」を引きずってるのかしら…とも思ったのですが、終演後に一緒にいった友人も同じ感想を抱いていました。静御前の舞う姿をみていて「イヤだ、別れたくない」というより、「やむを得ないことなのだ」と踊りながら自分に言い含めているかのように感じたんです。そんなつもりで踊っていなかったらゴメンナサイ(泣笑)。都を追われていくとはいえ旅の門出で、すがって泣くことも許されず、舞うしかないわけですよ、静御前としては。で、その悲しさに溺れているうちに、平知盛の霊の登場となり、静御前がどうやって引っ込んだのか記憶がない(^^;。

平知盛の霊。ホント、別人ですよ。歌舞伎役者さんって凄いよね?。荒々しいことこの上ないというかなんというか。ここまでの染さんは三役ともどちらかというと動かないお役だったのですが、静御前の悲しみも吹っ飛ぶくらいに圧倒されちゃいました。生きている(笑)平知盛は歌舞伎座で吉右衛門さんがおやりになったのを拝見したことがあるので私の中ではそこから繋がってくるのですが(繋げて考えるのが良い観賞方法とは思えないけど)、執念、怨念で義経を追いかけてきた霊というよりも、知盛って不死身じゃん!という感じがしちゃったんだなぁ。たぶん、私としてはもう少し静御前と悲しみに浸っていたかった心境だったのかもしれませんです。

結論。舞台ってのは生もので、ビデオみたいに巻き戻せませんから、この、ちょっとしたズレ感と申しましょうか、自分の精神状態や体調等で印象が変わる微妙な感覚を確認したくて、二度、三度と同じものを観ずにいられないんでしょうね。染さん、また船弁慶、踊って下さいね。

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