歌舞伎座 吉例顔見世大歌舞伎・弐

夜の部。1階二桁列10番台。食事、おやつ、土産無しで冷抹茶のみ! 出掛けにドーナツを一つ食べてしまったせいか、30分休憩の時に全く空腹感が無く、結局そのまま何も食べず。

一、嬢景清八嶋日記 -日向嶋景清-
    悪七兵衛景清....吉右衛門
    肝煎佐治太夫....歌昇
    里人実ハ土屋郡内..染五郎
    里人実ハ天野四郎..信二郎
    娘糸滝.......芝雀

今年四月に四国こんぴら歌舞伎で上演された演目。当時の感想を確認してみると結構あっさり…って、ダメじゃん。でも、金丸座の記憶は今もとても鮮明で、それがこうして歌舞伎座で上演されるというのはまた違った味わいがある。

こんぴらの時とは上手と下手を入れ替え、糸滝を乗せた舟が花道を通るという趣向。娘の乗る舟に向かって叫ぶ場面がより劇的になった。錦一さんの船頭もたっぷり見られて良かったしね。こんぴらで隼人くんだった糸滝は芝雀さん。娘の健気さに世が世なら…という哀れさも加わった情感豊かな糸滝となった。それに合わせて歌昇さんの佐治太夫も保護者っぽい部分が抑えられた優しさに感じられた。

なんとなく前半が平坦に感じてしまうのは、一人語りの場面のせいかな。後に娘が身を売ることを知り、頼朝の軍門に下ることになることとの対比で、平家方の人間であることを強く表現しているのだろうけれど、吉右衛門さんの存在感と感情表現なら、もう少し圧縮したものでも良いのではないかと思ったのは広い歌舞伎座ゆえのことか、四月に一度観ているゆえか…。夜の部最初の演目だし、聴かされるより入り込めるような雰囲気が欲しかったなぁ…というのは私の我がままでござんす。

最後の日向灘海上で位牌を海に投げ捨てる場面は今回付け加えられたそうだが、平家の大将、日向での俗世を離れた暮らしを経て、三つ目の人生を生きなおすことが強調された幕切れとなっていた。

二、鞍馬山誉鷹 中村大改め初代中村鷹之資披露狂言
    牛若丸....大改め鷹之資
    鷹匠.....富十郎
    平忠度....仁左衛門
    喜三太....梅玉
    蓮忍阿闍梨..吉右衛門
    常盤御前 ..雀右衛門

本当に豪華な顔ぶれで、芸能界一幸せな6才児…かどうかは知らないけれど、この披露狂言がとても幸せなことだったと理解するよう育って、さらには私たちを楽しませてくれる役者さんになって欲しいね。って、未就学児童がこういう大きなものを背負わされてしまうんだから大変なものだよ。まぁ、それが当たり前の家に生まれてしまえばそのまま疑問も無く育つのだろうけれど。鷹之資くんは前回の愛子ちゃんの初お目見得の時より随分立派になっていて、よく頑張っていた。背筋や腕をきちんと伸ばすところは相当仕込まれたのだろう。楓四天のみなさんも小さい子が相手ながらよく揃っていて華やいでいた。信二郎さんはちっちゃな牛若を跳ばすために大活躍。この後見姿が見た目も素敵で、人間国宝のご子息らしい、隅々まで行き届いた披露狂言だった。

三、連獅子
    狂言師右近
     後に親獅子の精..幸四郎
    狂言師左近
     後に仔獅子の精..染五郎
    法華の僧蓮念....玉太郎
    浄土の僧遍念....信二郎

とてもドラマティックな連獅子だった。幸四郎さんは踊るというよりも演じている感じで、とても温かみのある右近。親獅子となってからはゆったりとしていて、仔と張り合う部分は全く無く、別次元で見守っているような雰囲気。対して染五郎さんはどことなく少し冷めたさを感じさせるような左近で、仔獅子になってからはもう親の心子(仔)知らず(笑)。豪快というよりもやんちゃな仔獅子で、先の鷹之資くんのお祝い演目であろうことを考えると良かったんじゃないかなぁ。富十郎さん76歳、鷹之資6歳という親子を表現していたような感じで。毛振りの揃った連獅子、中村屋さんの三兄弟みたいな連獅子(っつーか、三人というだけでも他とはかなり違うのだけれど)も良いし、親獅子と仔獅子がこうもハッキリ色合いの違う連獅子も面白い。

余談:この日は私の前の席が空いていて、かなり見晴らしが良かった。しかも仔獅子がほぼ正面に位置していて大満足。昼の部も良かったけれど、踊っている染さんもやっぱり好きだわ?と、結局なんでもいいんだろ的なことを書いてみる。

四、おさん 茂兵衛 -大経師昔暦-
    茂兵衛.....梅玉
    おさん.....時蔵
    女中お玉....梅枝
    母お久.....歌江
    番頭助右衛門..歌六
    大経師以春...段四郎

遠方からのお客さんが多いのか、翌朝が早いのか、はたまた「連獅子」の昂揚した雰囲気のまま帰宅の途に着きたいのかよくわからんが、空席が多かったなぁ。両隣と前がガランといなくなってしまい、いささか焦ってしまったわ。途中で席を立ってしまう人もいた。途中で席を立つくらいなら始まる前に帰ったほうが良いのでは…。

梅玉時蔵コンビによる上方シリーズ。シリーズといっても九月の植木屋とこれだけかしら?平成七年以来の上演だそうで、初めて拝見。話自体はあまりスッキリしたものじゃないけれど、梅枝くんがすっきりとした可愛らしさだったので良し。歌六さんは国立劇場と掛け持ちというハードスケジュールの中、朝一の「息子」からは想像できないエロオヤジを熱演。最後の蔵に映る二人の影は磔された姿を表しているから適切な表現ではないかもしれないけれど、綺麗だったなぁ。

話がスッキリしていないとは書いたけれど、登場人物の面々というか、人間模様は流石に良く考えられている。実直な社員に惚れるOL、そのOLを狙う部長と社長。日頃はのほほんと過ごしている社長夫人が実家の窮地を実直な社員に相談して…って、結構漫画チックじゃない?

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今月は天王寺屋さんの披露興行だったからなのかわからないけれど、親子もの狂言が多かったね。ま、大概の作品が親子、男女、忠義のどれかにあてはまったりするわけで…。

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